『リラの壁の囚人たち』初日翌日の5/8(土)11時、14時半見てきました。
すごく良かった。
第二次世界大戦末期のパリ。リラの花咲くとある中庭での、4か月の物語。
最初に見終わった時は「佳作だよね。暗転が多いのが気になるけど。あとみんな立ち聞きしすぎ(笑)」と言う感想だったのが、2回目を見て「見れば見るほど切ないなあ……」となり、帰りの新幹線の中で更にじわじわと。
思い出せば思い出すほど、リラの壁の「囚人たち」という言葉の意味が沁みてくる。登場人物のそれぞれについて、描かれていない部分をいくらでも想像したくなる。本編がスカスカだから補完するのではなく、本編だけでも完成されているけれど、でもいくらでも想像できる。ヘビーリピートしたい訳ではないけれど何度でも見たい作品。
公演としても、下級生までみんな何らかの台詞やソロ歌もらっていて、勿論群衆場面も気合い入ってて、とても嬉しかった。
東京の千秋楽までどう変化・進化していくか楽しみです。
以下、各役について簡単な印象と感想。一部ツイッターの再掲みたいになっちゃいますが。
エドワード・ランス(エド)(凰稀)
レジスタンスへの協力のためパリに潜入したイギリス軍将校。
とにかくビジュアルが素晴らしい上にかなめ君の癒し系二枚目オーラ炸裂。マリーを励まそうとするやりとりには噴いた(失礼)。癖のある登場人物が多い中ニュートラルな人間で、その点もかなめ君に合っていると。でも癒し系なだけでなく、軍人としての面も説得力ありました。髭の四十男がいまいち落ち着かないのはご愛嬌(笑)。
ポーラ・モラン(白華)
エドの手当をし、彼を匿う協力をするうちに彼に惹かれていく娘。
これまた、れみちゃんの健気で薄幸そうな雰囲気に合っていた。思えばれみちゃんのバウヒロインを見るのはこの1年で3回目で、流石の上手さ・実力なのだけれど、儚げな寄り添い型で相手役を引き立ててくれるなあと。
で、癒し系のかなめ君と幸薄そうなれみちゃんは実にお似合いでした。色々と切ないんだけど、だからこそ束の間の幸せに見せる笑顔にきゅんと来る。お洗濯の場面でふざけ合うてるれみが素で幸せそうで何とも。
ジョルジュ・ルビック(紅)
ポーラの婚約者。4年前に戦争で負傷し車椅子生活。
見ていて何か思い出すと思ったら、冬彦さんだ!と(今の人はわからないかも)。 仏頂面、逆ギレ、そして時々子供みたいに口元をむにーっと歪める表情。いや理由があってそうなってしまったのだけれど。ベニーはいつも演りすぎる姿を微笑ましく見ているのですが、今回その演りすぎが狂気じみた域に達していて凄まじかった。宝塚の二番手には珍しいような格好いいところが全然無い役だけど、すごく演りがいを感じていそうだなあと。2日目でここまで鬼気迫ると、これからどこまで行ってしまうのか楽しみなような怖いような。
マリー・フルージュ(音波)
キャバレー「パラディ」で働く娘。「子供みたいなところがある」と言われる、アンバランスなところのあるマリーにすごくはまってた。少女っぽさと女っぽさ、意志の弱さと強さが同居している感じ。きれいで可愛かったし、時を経ての演じわけも実に上手かった。
ギュンター・ハイマン(美弥)
マリーを囲おうとするドイツ軍大尉。
少女漫画(ちょっとマニアック系)から抜け出してきたような金髪美形ナチ将校。みやるりは大劇場ではこの1年弟→娘役→弟というローテーションで、いかにも似合いそうとは言えこういう役は初めてな訳で、にもかかわらず堂々としていたなあと。ところどころ、ビシッ!という音のしそうなやりすぎ感がありましたが、それもまた良し。
マリーとギュンターの関係も、描かれていない部分を色々想像するとすごく興味深いのです。
ジャン・ルナール(壱城)
「パラディ」のウェイター。ポーラに横恋慕。
本当にろくでもない、いいとこなしの男(苦笑)。だけど元々ああじゃなくて、ポーラへの片恋が高じて歪んじゃったんだろうなと思わせられるのはしーらんだからなのか元々そういう設定なだけか。後半の追い詰められっぷりと鬱屈した芝居が半端ないなあと思うのですが、ネタばれになりそうなのでその辺の話は別途。
ピエール(天寿)
レジスタンスの青年。
真中辺りが癖のあるキャラ揃いなので、普通に格好いいピエールは儲け役かもしれない。麻央くんのルネとニコイチなんだけど、若く暴走しがちなルネに対しピエールの方が冷静な抑え役、でも使命感に燃えていて格好いいんだよね。またみっきーが若さと使命感をきらきら演じているので。危険なお尋ね者とは言え格好いい若者が現れて、娘たちがうきうきするような楽しい場面もあり。
あと特筆すべきはモラン氏(美城)!
ポーラの父で警察官。良き父、良き職業人であり、温和だが筋の通った愛国者であり、粋なところもある大人の男。すごく格好いい。また演じるさやかが格好良くて惚れ惚れですよ。
***
で、今日はジャンの話をします(いきなり)。時間は有限なので書きたいことから書かないと結局書けないと最近気づきました。
ストーリーのネタばれ含む上に深読みオタ属性全開の文章なので畳みます。
すごく良かった。
第二次世界大戦末期のパリ。リラの花咲くとある中庭での、4か月の物語。
最初に見終わった時は「佳作だよね。暗転が多いのが気になるけど。あとみんな立ち聞きしすぎ(笑)」と言う感想だったのが、2回目を見て「見れば見るほど切ないなあ……」となり、帰りの新幹線の中で更にじわじわと。
思い出せば思い出すほど、リラの壁の「囚人たち」という言葉の意味が沁みてくる。登場人物のそれぞれについて、描かれていない部分をいくらでも想像したくなる。本編がスカスカだから補完するのではなく、本編だけでも完成されているけれど、でもいくらでも想像できる。ヘビーリピートしたい訳ではないけれど何度でも見たい作品。
公演としても、下級生までみんな何らかの台詞やソロ歌もらっていて、勿論群衆場面も気合い入ってて、とても嬉しかった。
東京の千秋楽までどう変化・進化していくか楽しみです。
以下、各役について簡単な印象と感想。一部ツイッターの再掲みたいになっちゃいますが。
エドワード・ランス(エド)(凰稀)
レジスタンスへの協力のためパリに潜入したイギリス軍将校。
とにかくビジュアルが素晴らしい上にかなめ君の癒し系二枚目オーラ炸裂。マリーを励まそうとするやりとりには噴いた(失礼)。癖のある登場人物が多い中ニュートラルな人間で、その点もかなめ君に合っていると。でも癒し系なだけでなく、軍人としての面も説得力ありました。髭の四十男がいまいち落ち着かないのはご愛嬌(笑)。
ポーラ・モラン(白華)
エドの手当をし、彼を匿う協力をするうちに彼に惹かれていく娘。
これまた、れみちゃんの健気で薄幸そうな雰囲気に合っていた。思えばれみちゃんのバウヒロインを見るのはこの1年で3回目で、流石の上手さ・実力なのだけれど、儚げな寄り添い型で相手役を引き立ててくれるなあと。
で、癒し系のかなめ君と幸薄そうなれみちゃんは実にお似合いでした。色々と切ないんだけど、だからこそ束の間の幸せに見せる笑顔にきゅんと来る。お洗濯の場面でふざけ合うてるれみが素で幸せそうで何とも。
ジョルジュ・ルビック(紅)
ポーラの婚約者。4年前に戦争で負傷し車椅子生活。
見ていて何か思い出すと思ったら、冬彦さんだ!と(今の人はわからないかも)。 仏頂面、逆ギレ、そして時々子供みたいに口元をむにーっと歪める表情。いや理由があってそうなってしまったのだけれど。ベニーはいつも演りすぎる姿を微笑ましく見ているのですが、今回その演りすぎが狂気じみた域に達していて凄まじかった。宝塚の二番手には珍しいような格好いいところが全然無い役だけど、すごく演りがいを感じていそうだなあと。2日目でここまで鬼気迫ると、これからどこまで行ってしまうのか楽しみなような怖いような。
マリー・フルージュ(音波)
キャバレー「パラディ」で働く娘。「子供みたいなところがある」と言われる、アンバランスなところのあるマリーにすごくはまってた。少女っぽさと女っぽさ、意志の弱さと強さが同居している感じ。きれいで可愛かったし、時を経ての演じわけも実に上手かった。
ギュンター・ハイマン(美弥)
マリーを囲おうとするドイツ軍大尉。
少女漫画(ちょっとマニアック系)から抜け出してきたような金髪美形ナチ将校。みやるりは大劇場ではこの1年弟→娘役→弟というローテーションで、いかにも似合いそうとは言えこういう役は初めてな訳で、にもかかわらず堂々としていたなあと。ところどころ、ビシッ!という音のしそうなやりすぎ感がありましたが、それもまた良し。
マリーとギュンターの関係も、描かれていない部分を色々想像するとすごく興味深いのです。
ジャン・ルナール(壱城)
「パラディ」のウェイター。ポーラに横恋慕。
本当にろくでもない、いいとこなしの男(苦笑)。だけど元々ああじゃなくて、ポーラへの片恋が高じて歪んじゃったんだろうなと思わせられるのはしーらんだからなのか元々そういう設定なだけか。後半の追い詰められっぷりと鬱屈した芝居が半端ないなあと思うのですが、ネタばれになりそうなのでその辺の話は別途。
ピエール(天寿)
レジスタンスの青年。
真中辺りが癖のあるキャラ揃いなので、普通に格好いいピエールは儲け役かもしれない。麻央くんのルネとニコイチなんだけど、若く暴走しがちなルネに対しピエールの方が冷静な抑え役、でも使命感に燃えていて格好いいんだよね。またみっきーが若さと使命感をきらきら演じているので。危険なお尋ね者とは言え格好いい若者が現れて、娘たちがうきうきするような楽しい場面もあり。
あと特筆すべきはモラン氏(美城)!
ポーラの父で警察官。良き父、良き職業人であり、温和だが筋の通った愛国者であり、粋なところもある大人の男。すごく格好いい。また演じるさやかが格好良くて惚れ惚れですよ。
***
で、今日はジャンの話をします(いきなり)。時間は有限なので書きたいことから書かないと結局書けないと最近気づきました。
ストーリーのネタばれ含む上に深読みオタ属性全開の文章なので畳みます。
***
ジャン・ルナール。キャバレー「パラディ」のウエイター。「パラディ」と中庭を共有する袋小路に住むポーラに片思い、と言うか横恋慕。というのが簡単なプロフィール。
最初に登場する場面の彼は、ろくでもない、いいところなしの男。ポーラと見慣れない男エドが親しげに語り合う姿を見て、お喋りする暇があるんだったら俺と付き合えよ、と言い寄って手ひどく袖にされる。
この場面、気合いMAXで嫌な男を演じるしーらんと入れ替わりに、「朝っぱらからいちゃついてるからこんなことになるんだよ!」とトップテンションでブチ切れているベニー(もといジョルジュ)が現れて、うわーれみちゃん(もといポーラ)可哀想と素で思いました。そりゃかなめ君(もといエド)のようなニュートラルな癒し系イケメンが現れたら惹かれても当然。
話を戻して。
もう一度同じようなことがあって、ジャンはエドをゲシュタポに密告してしまう。中庭の住人たちが、みんなで匿っているエドを。
その場はポーラの父モラン氏(さやか好演!)の機転もあって切り抜けるのだけれど、事態はそれでは終わらなかった。恐らくその一件がきっかけで、ゲシュタポの男リヒター(直樹じゅん氏がいい味出してます)はジャンを協力者と見做し、何かあったら密告しろと命令する。中庭の住人達が見ている、衆人環視の中。
この場面、張りつめた雰囲気で、みんな固唾をのんでジャンがどう答えるか注目しているのですよ。
その視線が刺さるような空気の中で、リヒターから目を逸らしたまま、無言で小さく頷くジャン。その瞬間、なんてことを!と口々に騒ぐ皆。うるせえな、というように肩をいからせるジャン。
きっとわかっているんだろう、と思う。厄介な立場に陥ってしまったことを。でも自分で蒔いた種だし、後には引けない。虚勢を張るしかない。
実際にジャンがリヒターに何か報告したのか、密告者として役に立つことがあったのか、それは描かれていない。まあ、多分何も報告するようなことはなかったし役にも立っていなかったんだろうけど。彼が聞き得た役に立ちそうな情報はレジスタンスの動きだけで、その途端見つかって身動き取れなくなった訳だから。実際問題、皆が密告者だと知っている密告者なんてあまり役に立つとは思えない訳で、これがスパイものなら彼は囮で本物のスパイは別にいると言う展開もあり得ると思うのですが、まあこれそういう話じゃないし(笑)。
そこまで考えると、リヒターが小者として描かれていることも鑑み、実利より嫌がらせなのかもしれない。ジャンと、中庭の住人たちへの。勇んで捕物に乗り込んだのに成果なしで、恥をかかされたようなものだから。
再び話を戻して。
実際にジャンがゲシュタポのために働いたかどうかはわからない。でも、物陰に隠れて住人の様子を窺っている姿は見せる。どの程度本気かはともかく、密告者の役割を引き受けてはいたのだ。
住民たちからひとり孤立して。でもそれがどうしたっていうんだという顔をして、虚勢を張り続けて。
で、エドとレジスタンスたちの会話を盗み聞きしているところをモラン氏に見つかって反省房(違う警察の秘密の部屋)(それ何処なんだ)に入れられて、でもそろそろドイツ撤退も近いというので出してもらえたのか、中庭に戻ってきたところで、事件。
撤退の手伝いをさせるため、パリ市民を強制的に徴用しようとするドイツ軍。モラン氏をはじめ中庭の住人たちは従おうとしない。緊迫した状況の中、エドが歌いだすラ・マルセイエーズにジョルジュが真っ先に唱和し(いずれ語りたいと思っていますが彼は屈折して心まで病んでしまったけれどその分先鋭的なまでに愛国者だったと思うのです)、やがて全員が歌いだす。銃を持ったドイツ兵を前にして、武器を持たない市民たちが。
感動的な場面。けれど。
ジャンは歌えない。皆と一緒に歌うことができず立ち尽くす。ポーラが誘うように許すように諭すように手を差しのべるけれど、彼女を直視できず頭を抱えて崩れそうになる。
そして、怒り狂ったリヒターに殴られ、言葉にならない叫びを残して走り去る。その場から逃げ出す。
これが、彼の最後の場面。物語はこれから最後のクライマックスを迎えるけれど、ジャンの出番は、ここでおしまい。
初見時、あ、そうなるのか、と思った。
ここで、ジャンもラ・マルセイエーズに唱和するという展開もあり得ると思ったので。それをきっかけに共同体に復帰する。植田景子氏が演出補に入っているけれど、例えば彼女のオリジナルならそうするんじゃないだろうか。
また、『カサブランカ』では同じようにドイツ軍人に対抗してラ・マルセイエーズを歌う場面があるけれど、ナチスに協力してレジスタンスを密告した男(珠洲さんでした)もその場ではフランス人として胸を張って一緒に歌っていたし(実は彼はその後もう一回密告するので見ていてどうかと思ったのだけれど。作品テーマと関係ない部分だから問題ないのか、プロの密告者(?)だから割り切れるのか)。
でも『リラ壁』においては、そうはならなかった。ジャンは最後まで裏切り者として中庭のフランス人たちとは唱和できない。いやむしろ最後に自分のしたこと、自分の罪、個人的な腹いせでやってしまったことが共同体ひいては祖国への裏切りであったと言うことを突き付けられて、耐えかねて逃げ出さなければならなかった。
それが、苦しいと思う。
本当、作中3回も殴られるし1幕では根性ねじ曲がった嫌な男だし2幕ではみんなに「ゲシュタポの犬」「あんたなんかどっか行っちゃえ」と罵られるし、格好いいところの何もない役だけど(苦笑)。
でも、彼は本当にポーラのことが好きだったんだと思う。彼女が好きで、でも彼女はジョルジュと婚約してしまって、しかもその後ポーラとジョルジュの関係は歪んだ苦いものになってしまって、そんな姿を4年の間見ているうちに、ジャンのポーラへの思いもまた歪んでしまったのだと思う。
や、そうでない解釈もあり得るとは思いますが、私にはそう見えたのです。「惚れた女がいるから」ここを離れないという彼の言葉は、嘘ではなかったのだと思う。
歪んだ恋に囚われて、犯した罪に囚われて、追い詰められてどうにもできなくなってしまった、かわいそうなひと。
辛さ、苦しみと言うことならジョルジュの方が救われようがなかったのかもしれない。けれど彼は最後に、ドイツ軍に一矢報い、ポーラの仇を打ち死んでいくことができた。
でもジャンは生きている。何もかもから逃げ出したまま生きなければならない。
彼はどこへ行くのだろう、と思う。
しーらんの演じるジャンの造型がいいんだと思う。特に2幕、いからせた肩とか、強張った頬とか。強い、でも俯いて虚空を見つめるしかない眼差しとか。陥った状況と、それに対する苛立ちと、平然を装う虚勢。
リヒターに密告を命じられる場面も。厄介なことになった。でもそう思っていることをはっきり態度に出すわけにはいかない。かと言って唯々諾々と屈したと思われるのも癪だし、皆の手前もある。斜に構えた姿勢、誰とも目を合わせようとしない視線。平静を保とうとしつつ戸惑いと困惑をにじませ、ふてぶてしさで小心さを押し隠した表情。最終的に頷くまでの間の取り方。そんなものから、彼の心情が伝わってくる。
最初のポーラに絡む場面もすごい気合の入った嫌な男ぷりに「うわこいつサイテー」と本気で思いました(笑)。ねちねちと嫌らしくて本当に酷い(この場合褒め言葉です。ですってば)。
いや本当、表面的な設定だけだといいとこなしの馬鹿で嫌な情けない男なんですが、でもそれだけに終わらせず演じていると思うのです。元々の脚本演出の意図もあるのだろうけど。
と言う訳で、現時点で見えたもの、感じたこと、です。
また次に見るときは舞台も変わっているかもしれないし、こちらの感じ方も違うかもしれないけれど、とりあえず書き残しておきます。
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